睡魔の研究

じつに睡魔というものはね、睡っている人の近くでしか生きられないんだ。だから、もしも君が睡っていたとして、目が醒めたときに近くに誰も居なかったとしたら、睡魔は死んでしまう。かといって、近くに誰も居なかったらば睡らずに居られるか、というとそうではなくて、ただ睡気を感じていさえすれば、そこに睡魔は自然に発生し得る。だけど大概の睡魔は、人から人へ、夜の街から夜の街へと依り代を移動して、地球をぐるぐると周回しているものなんだ。
もう一つ、睡魔というのは、睡気を堪えている人間が大の好物で、そういう人間に出会ったときというのは、ちょうどひやりとした布団に火照った足を差し入れるような体験に似ている。だからね、修学旅行で徹夜を試みるなんて真似は、睡魔にしてみれば願ってもないような好機なんだ。それで、彼らの仲間の誰かが手掛かりを掴んだら、あとは一斉に睡魔が雪崩込んで来るというわけなのさ。

要するに、全地球が一度に昼になったらば、睡魔は絶滅するであろう、というお話。