無限の書

さて、人類というものはあんまりにも長く繁栄しすぎたので、いつしか無限へと足を踏み入れていた。たとえば、言葉ひとつとってもそれ以前、いわゆる「有限世代」との断絶が理解してもらえると思う。いまや人類は、「ありうるすべての文字列」なるものを手にしているのだ。それらの文字列は、正式な名称は誰も知らないものの、一般の人々には「無限の書」とか、「永遠の書」なんて名前で知られている一冊の書物に収められ、各家庭の、たいていは屋根裏部屋か、あるいは押入れの来客用の布団なんかと一緒に保管されている。この世界で何を喋ろうが、それは既に「無限の書」に記されているのだ。
まぁそれなりに頭の働く人ならば、そんな本にはページがいくらあっても足らない、ということに気がつくと思う。確かに「無限の書」は無限のページがあって、もちろん厚さは無限大なのだけれど、僕ら「無限世代」の人間は、部屋に一つや二つ、それどころか無限個の無限大があったくらいでうろたえたりはしない。それこそが有限世代と僕たち無限世代との超絶ジェネレーションギャップなのだけれど、結論から言ってしまうと僕たちはそんなことを問題にしていない。無限世代の人間は往々にして有限のものを無視する傾向がある、というのもよく言われる話だが、そもそもそんな話自体がたいてい無視されてしまっている。

地上に引き摺り下ろされた「無限」のお話。